キャッチャーミット
キャッチャーミット ちょっとコーチと話してくるから、と宿舎の出入り口で伴と別れた飛雄馬は部屋に戻ってすぐ帽子を脱ぐと、自分のベッドの枕元にそれを放った。
それからすぐ、私服に着替えようとしたところで伴に割り当てられた机の上にキャッチャーミットが置いたままになっていることに気付いて、それをそっと手に取ってみた。
飛雄馬が使う投手のそれとは違う分厚いグラブ。
それも、ほとんど他の選手の投球を受けたことのない、彼の球だけを捕り続けたもの。
伴が練習後や休日には汚れを落としたり、オイルを塗ったりと手入れをしているのを飛雄馬は目の前で見てきている。
自分のものではないグラブだが、なんだか愛着のようなものが湧いてきて、飛雄馬はそれをぎゅっと握った。
「おうい、星ぃ。待たせたのう」
「わっ!」
突然、部屋の扉がノックもなく開けられ、飛雄馬は飛び上がらんばかりに驚いて手にしていたグラブを足元に落とした。
「なんじゃい?キャッチャーミットなんぞ触ってどうしたんじゃ」
「いや、このミットには色々お世話になったな、と思ってさ……」
伴が部屋に入り、扉を閉める音を聞きつつ飛雄馬は取り落としたグラブを拾い上げる。
「色々、か。そうじゃのう。おれと星の血と、汗と涙をたっぷり吸っとるからな」
帽子を取りながら伴が微笑混じりにそんな台詞を口にした。
「キャッチャーミット様々だな」
「しかし、ミットだけじゃ使い物にはならんぞい。それを上手に使えるキャッチャーがおらんとな」
誇らしげに伴は体を反らし、胸を拳でドンと叩いた。
「ふふ、そうだな。伴がいないとな」
再び手にしたグラブを持ち主に返すべく肩の高さまで挙げた飛雄馬の腕を伴は掴むや否や、自身の方へぐいと引き寄せた。
「……!」
その厚い胸に力強く抱き寄せられ、飛雄馬はそこに顔を埋めてから目を閉じる。
自分から抱き寄せておいて緊張しているのか胸の鼓動は妙に速く、飛雄馬はくすっと吹き出した。
「ほ、星、その……」
「風呂に、行くんだろう」
「あ、う、そ、その、前に」
「…………」
飛雄馬は伴の胸に埋めていた顔を上げ、上目遣い気味に彼を仰ぎ見ると唇を微かに開く。
「あっ!?え、っ……と」
「伴はいつもそうだな。自分から誘っておきながら、いざこちらがその気になると取り乱して」
「星にそんな顔されたら取り乱すに決まっとるじゃろう」
「っ……!」
今度は飛雄馬がかあっと頬を染める番で、伴を見上げていた顔を逸らすと、唇を引き結んだ。
「最後までは、せんから……」
そっぽを向いた飛雄馬の耳元に顔を寄せ、その頬に口付けると伴は彼の体を抱く腕の力をより一層、強める。
「う……」
ほんの少しかさついた唇が触れた箇所が熱を持って、飛雄馬は小さく体を震わせた。
「星、こっちを向いてくれい」
「いやだ。見たくない」
「なんじゃと。そんな顔と言ったのを根に持っとるのか」
「…………」
「おれは可愛いと、そういうつもりで言ったんじゃがな」
「可愛い?おれがか。ふふ、熱でもあるんじゃないか」
「星はどちらかと言うと格好いいとかハンサムと言うより可愛いと思うが」
くすくす、とふたり、笑みを口元に湛えつつ、顔を突き合わせてから、飛雄馬は爪先立ちになって背伸びをすると伴の首に腕を回し目を閉じる。
伴は飛雄馬の体を抱いたまま、鼻がぶつからぬようやや顔を傾け、唇が触れ合う寸前にまぶたを下ろした。
「ふ……っ」
互いに浅く口付けてから、飛雄馬は遠慮がちに口内に侵入して来ようとする伴の舌の来訪を許し、柔らかく濡れた粘膜同士を絡ませ合う。
そのお陰で、スライディングパンツの中のものが反応し、飛雄馬は小さく喘いだ。
「星、腕を緩めてくれ……ベッドに行こう」
「ん……」
素直に飛雄馬はそれを聞き入れ、伴から離れると自身のベッドに座ってから、枕の置いてある位置まで体を移動させる。
伴も飛雄馬の後を追うようにして、ベッドに乗り上げ、彼の足を左右の脇に抱えるような体勢を取るとその体の上に覆い被さった。
「星……嫌なら嫌と言ってくれて構わんからな」
「ここまで来て今更そんなことを口にするほど野暮じゃないさ」
伴の緊張を解すような台詞を吐いてから、飛雄馬は伴を呼ぶ。
そうすると伴は大きな体を屈め、再び口付けを与えてきて飛雄馬はそれを受け入れつつ、立てた膝、その先にあるソックスを履いたままの爪先をぎゅっと曲げた。
「あ……っ、う」
一旦、口付けを中断させた伴は飛雄馬の首筋に顔を埋め、その汗ばんだ肌に舌を這わせながら右手で組み敷く彼のユニフォームのズボンを留めているベルトを緩めていく。
そうして、余裕の出来たアンダーシャツと腹の隙間から手を差し入れ、伴は飛雄馬の腹を掌で撫でるようにしてユニフォームとアンダーとをたくし上げていった。ほとんど日に当たることのない白い腹が眼下に晒され、伴はそこに唇を寄せるとちゅっ、と音を立て跡を付ける。
首やうなじなどユニフォームから出る箇所に跡を付けるのは飛雄馬も嫌がるが、こういったところならよほどのことがない限りは他人に見せることがないため、伴も時折、こうして痕跡を残すことがあった。
「は……ぁ、あ……っ、」
溜息混じりに声を上げて、飛雄馬は背を反らし、顔を隠すように腕を目元に乗せる。
と、伴は徐々に吸い付く場所を変え、腹から胸の位置まで昇ってくると、飛雄馬の左右の胸にそれぞれ付いている突起の片方をそっと口に含んだ。
触れ方こそ柔和であったが、その突起から鋭い快感が一気に体を突き抜けて、飛雄馬は思わず、あっ!と大きな声を上げる。
じわっとそこが熱を持って、立ち上がったのが分かって飛雄馬は目元に置いていた腕を唇に押し当て、声を殺した。
「ん、ん………っ、く」
身を捩り、飛雄馬はその快楽から逃れようとするも伴は突起を吸い上げるのをやめたかと思えば、舌の腹で膨らんだそれを舐め、舌先でそれを転がしてきた。
「あ、く、ぅ……う、う!」
その刺激に慣れてきた頃には淡く前歯で甘噛みされ、飛雄馬のスライディングパンツの中身ははち切れんばかりに勃起し、真っ赤に火照った頬には激しくもたらされる快楽からか瞳から溢れた涙が伝っている。
「星……」
囁くように名を呼んで、伴は飛雄馬のユニフォームのズボン、そのボタンを外しファスナーを下ろしてやってからスライディングパンツの中に手を入れた。
先走りが止めどなく溢れ、勃起しきった男根をその透明な液体がぐちゃぐちゃに濡らしていて、伴は一瞬ドキッとしたが、それを解放してやると大きな掌で包み込むようにしながら根元から亀頭までを一息にしごいた。
「あ、あっ、あ……!」
その動きだけで飛雄馬はドクッ、と白濁を飛ばし、自身の腹に体液を飛散させる。
「…………」
これに驚いたのは他でもない伴であり、先程の発言通り飛雄馬に絶頂を迎えさせてやったらそれ以上先に進む気は更々なかったが、こうも呆気なく果てられてしまうとは思いもせず、ついつい固まってしまった。
「は、ぁっ……はぁ……伴っ、来てくれ……」
「……星は明日も一軍戦じゃろう。ここいらでやめておかんと先輩方に迷惑がかかるぞ」
「ふ、ふふ……こないだも、そう言って強がっておいて、きみはひとり、自分を慰めていただろう……構わない。おれは、必ず、明日の試合でも、勝ってみせる」
はーっ、はぁっ、と飛雄馬は腹を呼吸のたびに上下させつつ、涙に濡れた瞳で伴を仰ぐ。
「し、かし……星の負担になるような、ことは」
「……それなら、伴、きみが下になれ。おれが動く」
「星……!」
「伴と、一緒になりたい。頼む」
ゴクン、と伴は唾を飲み込んで、膝立ちになると彼もまたベルトを緩め、ボタンを外すとファスナーを下ろし、スライディングパンツと共にズボンを膝上まで下げた。
口ではやめよう、と言っておきながら伴のそれも臍に付くほどガチガチに反り返っていたことは紛れもない事実である。
飛雄馬は伴を受け入れるべく、ズボンとスライディングパンツ、それにストッキングとソックスとを足から抜き取ると、足を開き、ちらと目の前の彼に視線を投げた。
「これで、最後だぞ。星、後からやめろと言うても知らんからな」
頷いた飛雄馬の頭が乗る枕の下から伴は潤滑剤として使用している軟膏の容器を取り出し、蓋を開けると、中身を指で掬い取る。
そうしてそれを飛雄馬の尻へと塗り付け、ゆっくりと指の腹でその窪みを刺激に慣らしていく。
「く……っ、ん、ん……」
ぴく、ぴくと飛雄馬は伴の指がそこを撫でるたびに反応を見せ、体を戦慄かせる。
伴は飛雄馬の様子を伺いながら指をそこへ挿入させ、苦痛を和らげようと彼の胸の突起へと再び吸い付いた。
「あっ、ひ……」
伴の指を締め付け、飛雄馬は背中を大きく逸らす。
中を掻き回すよう指をそろそろと動かして、伴は飛雄馬の突起に軽く歯を立てる。
だめだめ、またひとりでいっちゃう、と飛雄馬は首を振り、伴の指から逃げるように腰を揺らした。
「……星が満足すればおれはいい」
「伴と、一緒じゃなきゃいやだ」
「…………」
伴は飛雄馬の中から指を抜き、自身の男根に手を添えると彼の尻にそれを充てがう。
「……伴」
目の前の彼の名を呼んで、飛雄馬は大きく息を吸った。と、伴は腰を押し付け、飛雄馬の中に己を飲み込ませていく。
指である程度までは拡張されてはいたものの、それ以上に質量のある怒張が腹の中を押し広げ、奥に奥に押し入ってくる。
少し奥に突き進むたびに伴は大丈夫か?と飛雄馬を労い、汗の滲む額を拭ってやった。
「だ、っ、いじょ……ぶ。ん、っ……」
ぐぷっ、と根元までを飛雄馬の中に埋め込んで、伴は彼の体が馴染むのを待つために腰の動きをそこで止めた。
はあっ、と飛雄馬もやっとそこで一息ついて、閉じていた目を開けると伴を見上げる。
腹の中が全部伴で満たされて、その事実だけで気を遣ってしまいそうになるくらいの得も言われぬ恍惚感に酔いしれ、飛雄馬は虚ろな目を何度も瞬かせた。淡く歯を立てられた胸の突起もじんじんと疼いて、飛雄馬は伴に、動いて、と囁く。
「………」
ぎっ、とベッドを軋ませ、飛雄馬の腹の中を伴の怒張が擦った。
「あ、っ…………!」
頭が真っ白になってしまうほどの強烈な快感が走って、飛雄馬は体を弓なりに反らし、再び口元にやった手で強く拳を握る。
伴は腰を引いては突くことを繰り返し、あくまで飛雄馬の快楽のみを引き出すことに専念した。
あまりの刺激の強さに身体を離そうとする飛雄馬の腰を押さえつけ、それでもあくまで飛雄馬のペースに合わせ腰を振る。
まつ毛の縁に涙を溜め、ひくひくと体を絶頂の余韻に震わせる飛雄馬の中を伴は幾度となく掻き乱した。
「い、っ…………伴、いっしょじゃなきゃ、いやだ……」
「もういいじゃろう。星、抜くぞい」
「いや、いや、だ」
腰に両足を回し、飛雄馬は伴に中で果てることをせがみ、彼も堪えきれずそのまま腹の中で射精した。
「う、ぐ、ぐ………」
どく、どく、と伴は飛雄馬の中に最後の一滴までを放出してから、ようやく彼から離れる。
「………」
飛雄馬もまた、伴の腰に回していた足を下ろして、ベッドの上にそれを投げ出した。
「星、体は、大丈夫かのう……」
「なに、心配するな。伴とこういうことをしたくらいでどうにかなるような体じゃ、ないさ」
苦笑し、飛雄馬は体を起こすと、伴からティッシュを受け取り自分の腹と尻とを拭った。
そうして、風呂の支度をしている伴を呼び、手を貸してくれ、と掌をこちらに向けるよう指示を出す。
「手?」
「……伴の手は、ずいぶん大きいんだな、と思ってな」
伴の掌に飛雄馬は自分のそれを合わせ、第一関節分ほど長さと大きさの違う彼の手と自身の手を見比べる。
「そ、そうかのう。喜んでいいことやら」
飛雄馬は伴のそれぞれ5本の指同士の隙間に指を入れ、ぎゅっと手を握る。
「ふふ、褒めたつもりだが、伝わらなかったか?」
そんな冗談を口にしつつ飛雄馬は暖かく、大きな掌から伝わる伴の体温に顔を綻ばせると、また、彼に対し口付けをねだるのだった。